搾りたての生乳を使い、5人のチームワークで作り上げるチーズ

「夢みるくの会」は酪農家等の方々が集まってチーズ作りをしている会で、20年以上前から活動しています。農業改良普及センターの普及員からチーズの作り方を教わったのが始まり。当初は豊頃コミュニティセンターに集まって、自分たちや家族、友人・知人へおすそ分けができるくらいのチーズ作りを楽しんでいました。

しかし大きな転機となったのが、2011年にオープンした「はるにれ友遊館」。町内の空き店舗を改装して住民が交流する場として生まれ変わったこの施設の中に、本格的なチーズを製造できる食品加工室ができたのです。これを機に販売にもチャレンジしてみよう、と2015年に夢みるくの会の中から門茂子さん、田頭綾子さん、櫻井美江子さん、石田幸美さん、按田成子さんの5人でチーズ工房「夢みるく」を立ち上げました。

左から田頭さん、櫻井さん、石田さん、門さん。この日、もう1人のメンバーの按田さんは家庭の事情で早めに帰宅。お互いに助け合って活動を続けてきました。

チーズへの愛と責任感を持って

5人全員が酪農を営んでおり、チーズ作りで使用するのは、その日の朝搾りたての生乳。メンバーは両手に生乳の入ったタンクを持ち寄って友遊館にやってきます。

チーズバットという、生乳の過熱・攪拌・凝固・冷却等ができる機械などを慣れた手順で駆使して、スムーズにチーズを作ります。チーズ工房夢みるくでは、モッツアレラチーズとストリングチーズ、熟成が必要なゴーダチーズの3種類を製造しています。中でもゴーダチーズの熟成は、温度と湿度管理が重要。熟成庫の代わりに家庭用のワインセラーを使って熟成を促します。家庭用のワインセラーに入るのは、成形したゴーダチーズ20個ほど。2ヶ月間にわたって熟成させるため、製造できる量は限られています。

写真左/ワインセラーが熟成にぴったり。
写真右/友遊館にある小型のチーズバット。生乳の殺菌、乳酸発酵などをプログラムで運転できます。

2ヶ月間の熟成中の管理は、5人で手分けして行っています。当番を決めて連絡を取り合い、交代でチーズを磨いたり熟成の様子を確認。2015年の販売開始から7年。チーズへの愛と責任感がないとなかなか続けられない作業です。

こうしてできた夢みるくのチーズは、クセが少なく日本人好みの味わい。ゴーダチーズ独特の臭みを抑え、まろやかに仕上がっています。購入された方からは「いつまでも口の中で転がしておきたい」という声が聞かれたことも。自分たちが美味しいと思い作り始めたチーズの味を多くの方に好んでもらえたことから、安定した味わいを届けられるよう、販売当初からレシピをほとんど変えずに作り続けてきました。

成型したばかりのチーズ。
水分を減らすために漬物用の重石をのせています。

酪農の仕事とチーズ作りの両立を

2015年から培ってきた5人のチームワークは見事なもの。皆夕方の搾乳の時間までには帰らなければならないので、作業は時間との戦いです。ときどき談笑しながらも、つねに手は動いています。

チーズ作りは10月から4月にかけての期間に行われています。夏期は牧草やデントコーンの刈入など、牛の世話以外の仕事が増えることと、温度と湿度の管理が難しくチーズ作りに向いていないこともあり、活動をセーブしています。

熟成中のゴーダチーズ。ここからさらに2週間ほど熟成させて完成です。

「最初は自分たちのために作って食べていたチーズが、今は色々な方に味わってもらえるようになって嬉しい」と門さん。現在はふるさと納税の返礼品としての需要が高まり、その注文分で在庫はほとんどなくなってしまいます。それでも同じ友遊館内にある「喫茶ふわり」で販売したり、町内の小中学校のふるさと給食に提供するなど、地元豊頃町への還元も大切にしています。

田頭さんは「これからも現状を守りながら、おいしいチーズを提供したい」と話します。酪農の仕事とチーズ作り。これからもその両方を大切に、5人で協力しながら活動を継続していきます。

ふるさと納税で提供しているセット。